螺旋状の垂訓

 

「螺旋状の垂訓」  森村誠一

 

 

 

読書の喜びを教えてくれた原体験が乱歩。はじめて読んだ大人の小説が横溝正史。このお二人のラインナップではミステリとはホラーめいた恐ろしい小説と子ども心にインプットされてしまったのも無理もないですね。

 

 

 

で、金田一耕助をあらかた読み終わって、次に何を読もうと手を出したミステリが森村誠一でした。当時角川映画で「人間の証明」「野性の証明」などブームだったので、角川文庫の青い背表紙の著者の作品が書店で山積みだったのですよ。完全に角川メディアミックス戦略に乗せられていますw

 

 

 

最初に読んだのは「超高層ホテル殺人事件」でしたか。6年生くらいの時でしたかね。懐かしい。僕の中では70年代を代表するミステリ作家のひとりですね。もちろん、今でも現役の方ですが。

 

 

 

驚きました。全然恐ろしくない。恐ろしくないミステリもあるのかと(爆 あるって)。恐ろしいどころかそこに展開されるのは洗練された都会の風景や、華やかな現代社会。しかし、そこには子どもには理解できない非情な大人の世界が。名探偵は出てこないのに密室だのアリバイだの不可能興味満載の古典的なトリックも盛り込まれていて、知的興奮に満ちているじゃありませんか。夢中で読みました。やはりミステリはトリックですよね。

 

 

 

後になって著者は名探偵不要論者だと知りました。その例として明智小五郎にロッキード事件は似合わないと言っておられますね。現代の複雑に絡み合った組織犯罪や巨悪に立ち向かうには天才的な個人でではなく、警察や司法などの組織の力でという意味でしょうね。わからなくはありません。

 

 

 

さて、螺旋状の垂訓。言うまでもなく聖書の山上の垂訓から題がとられています。「敵を愛し、迫害する者のために祈れ」という人類に対する永遠の課題。しかし、それに達し得ない人間の罪深さがテーマです。しかし垂訓って言葉。山上の垂訓以外に使いますかね。そもそもどういう意味なのでしょう。訓示を垂れるという意味ですかね。難しい言葉だ。

 

 

 

とは言ってもエンタメ小説ですから、大上段を振りかざした重い話にはなりません。OL殺人事件に端を発する4件の殺人が、つながっていくところにミステリ的な仕掛けがあって楽しいです。著者は青山学院の卒業ですから、そこで聖書に触れているはず。この作品もそういう背景に遠因を求められるのかなと思ったりもするのですが・・・

 

 

 

そう言えば、著者にはミステリが定着する国は民主主義が定着している国との持論があってなるほどと思いました。確かに独裁国家なら捜査もなく証拠もいらず、人権無視でいきなりお縄ですからね。そういう国からはミステリはまず生まれません。たかがミステリ。しかし民主主義のバロメータにもなりうるとは深い。