動物園の鳥

 

坂木司

  ミステリに興味のない人には退屈な話でしょうが、ミステリには日常の謎系と呼ばれるジャンルがあります。そこには殺人や犯罪がないとミステリは書けないのかとの強烈なアンチテーゼがあるわけです。

  

どんな日常の場面であれ、謎があって、論理的に導き出せる解決があればミステリは成立するのではないか。こういう立場の作品が日常の謎系。嚆矢はきっと北村薫でしょうかね。この系譜には加納朋子・米澤穂信もいる。著者もそのひとり。殺人も犯罪も出てこないのだから、当然作風はハートウォーミングになりがち。これははっきり言って好みです。

  

さて、「動物園の鳥」。この作品はあるシリーズの第三弾で完結編。特異なのが探偵役にはハンディがあること。抜群の推理力を発揮する鳥井君は実は外に出られない引きこもりなのですよ。だからと言ってオタクを想像してはいけませんwきっと繊細すぎるのでしょうね。彼と外をつなぐ唯一の人物が大親友で著者と同姓の坂木。坂木が持ち込む何気ない事件を鳥井君が解決するというパターンですね。

  

今までは鳥井君がどうして引きこもりになったのか明らかにされていませんでした。しかしこの作品ではそのつらい過去が明らかに。キリスト教に関係するところでは路上生活をする人たちに食事を提供するキリスト教団体が出てきますね。こういう福祉や社会貢献が世間の人がキリスト教に持つイメージのひとつかと思うと興味深いですね。

  

僕は鳥井君が引きこもりだからこそ名探偵なのかもと思いました。外の世界に属しきれない違和感と言うか、繊細さというか、純粋さというか。そういうものがかえって人に対する鋭い感覚を研ぎ澄ませるのだろうかと。しかし、この作品では彼は過去の痛みを乗り越え、引きこもりの原因を作った人物と向かい合い、外に出ていく勇気を持ち始めます。

  

でも引きこもらないまでも外の世界に違和感を持つのはクリスチャンも程度の差はあれ鳥井君と同じでは?信仰のない方に理解されなかったり、時には傷つけらたり。それでも人間不信にならず人に関わろうとするのが信仰でしょうか。

  

正直に言うと、鳥井君への坂木君の友情に何ども泣きそうになってしまいました。こういうの弱いんですよ。もらい泣きです。ここまで坂木君に大切にされる鳥井君は幸せ者です。これはミステリの形を借りた人間成長の物語かも。どうせ読むなら、第一弾「青空の卵」。第二弾「仔羊の巣」とまとめて読んだほうがいいでしょうね。タイトルが卵→巣→鳥と成長していくように、人間だって成長していく生き物なのです。